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Mother【第2章】
2008年12月18日

第1章からの続き

昔のいかにも古めかしい、レトロな正方形のクッキーの缶の中には、
ぎっしりと父からの手紙が入っていた。
母は恥ずかしいから、ずっと隠していたのだ。

全く知らなかった母の可愛い秘密。
私に見せた手紙は、母にとって一番大切なものだったのだろう。
その時はもちろん恥ずかしいからという理由で読ませてはくれなかった。

私は遺言通り、その手紙を誰にも気付かれないように、
棺桶の中で眠る母に羽織らせたお気に入りの赤いコートのポケットに忍ばせた。
実は入れる前に少しだけ読んでしまった。

しかし、三行目辺りから涙が込み上げ文字が霞み始めた。

まだ若かりし、父から母への深い愛情が感じられるその手紙の先を、
娘の私でもこれ以上立ち入ってはいけないのだと
後悔すると共に罪悪感を感じ読むのをやめた。
そして冷たくなった母に謝った。

母が亡くなって初めて、人は一人では生きていけないのだと知った。
しかし私はあの時、病状の悪化していく母を、一人ぼっちにしてしまっていた。

入院している母を見舞いに行ったある日、病院の先生に言われた一言。

「お母さんには家族がいないから。」

その言葉が刃のように私を貫いた。

けれど、その時私には母を守る術がわからなかった。
仕事も辞めて、付きっきりで看病してあげればよかったのかもしれない。
死の淵まで追い込んだのは、何も理解してあげられなかった私。

あの時どうすればよかったかなんて、今もわからない。
ただあの時から自責の念が頭を支配する。
自分に対する自己嫌悪、怒り、憎しみ、悲しみ、虚無、葛藤、孤独、
いろいろな感情が込み上げ渦巻く。

混沌とした自分の中にある闇に突き落とされたような感覚がいつまでも付き纏う。

拭い去れない過去の記憶と妄想。

自分は幸せになってはいけない。
生涯一人で生きていこうと。

母の死について考えない日はなかった。
失意の中、自分もこのまま朽ち果ててしまえばいい。
抜け殻のような自分。まるで映画のワンシーンのように
母の亡くなった日の事を夢に見て跳び起きる毎日が何年も続いた。



第3章へ続く