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コラムインデックスビストロTamasa>フィルムズ【第2章】
フィルムズ【第2章】
2008年10月16日

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この日はとても暑い日で、
私は缶ジュースを一本買うためだけの小銭を用意していた。

確かこの家に来る途中のどこかで自販機を見かけたはず…
と言ってもこのまっすぐ伸びた一本道以外に道はない。
私はひたすら歩いていた。

何十分歩いたのだろう。
自販機らしいものを遠くに確認できた。
やっとの思いでたどり着きジュースを一本買い、
一息ついてから、ふと、その先に目をやった。

夜が明け始めた大きな空の一場面に、
なんとも壮大な一本の樹が姿を現し始めていた。

聳え立つその樹を目の当たりにし、
その姿を現していく様を、唯々我を忘れしばし見とれていた。
静かな朝焼けの中、なんと幽玄で神秘的な瞬間。

いまだに目に焼きついて離れない、北海道の自然がそこにあった。

きっとこれを見るために私はここまで歩いてきたんだ。

よく見ると、夜が明け始めたばかりだと言うのに、
もう観光客らしき人がみえる。

自分のことは棚に上げこんな時間に見に来るなんて信じられない、
と少し思ったが、恐らくこの素晴らしい風景に
私同様感動していたことだろう。

さて、皆が起きる前に帰らねば私の捜索が始まりかねないと思い、
私は振り返り、来た道を戻ることを決意した。

決意しなければいけないほど遠かったのである。

しかし歩き出して程なく、
来たときには一面深々とした群青色だった空が、
だんだん白みを帯び、徐々に淡いブルーに変化し、
そこに樹々などのシルエットがまるで影絵のように浮かび上がり、
それが大変美しく壮観で、帰る道筋はまたそれでさわやかなものとなった。

私が家につく頃には完全に朝日が昇り、
なんともいえない朝の清々しい香の中、
その家の主はもう起き出して作業をしていた。

主は私の姿を見て少し驚き、
興奮中の私を気遣ってくれたのであろう、こう言った。
「どこに行ってきたの?眠れないなら、車にのりなさい。」と。

私が行った自販機の方向とは反対に車は動き出した。
車でしばらく行った先に家があり、その主はこう言った。

「ここが隣の家だよ。」
隣家のあまりの遠さに驚きを隠せない私を見て、主はくすりと笑う。
またしばらく行った先で、車を降り、今度は芋掘りである。

北海道のど真ん中で芋を掘る。
これ以上ないくらい北海道チックなシチュエーション。

芋掘りも無事終え、また車で移動。
はるか道のりの中、家が点在しており、
それぞれの家のことを楽しそうに話してくれた。

再び家に帰り着いたときに
「今、回ったところが町内会だ。」と教えてくれた。
もう、町内会の意味もわからないくらい広い。

一生忘れられない一日となった。
ただ、そこで生活をしている人々を思えば、
大自然がいかに脅威であるかも考えざるを得ない。

デジタル世代の軟弱な私には
憧れだけでそこで生活していくことは、
困難極まりない試練となることはまず、間違いない。

偉大な自然と対峙する、あの主の絶え間ない微笑みの中に、
やはりただものではないエナジーを感じるのだ。


あれから、一度もその町には行っていない。
でも北海道を思う時必ずあの風景を思い出す。
必ずまたいつか訪れたいと思う。

心のフィルムズ。