走る俺
2008年8月28日
また虚無感が僕を襲う。
こんな時は決まって怪我をしてしまう。
満たされない気持ちを速さや高さに無謀にぶつけ
怪我をもってして生きている実感を得ていたのはほんの数年前。
虚無感を払拭するために家で頭を悩ませていても
事は何故か悪い方向にしか進まず、虚無から絶望に変化していくだけだ。
いつものように酒を飲み、
呑んでいる時は楽しいが帰り道はいつも悶々としてしまう。
何かに奮起しなくてはと、
寝る前に思い立ったようにリュックにタオルとTシャツを詰め込み、
最近していなかった目覚まし時計をセットした。
朝9時30分僕は(札幌の勝手にシンボル)藻岩山の登山道入り口にいた。
この山には思い入れが深い、
僕の小学校は元々藻岩山の麓、今の中央図書館にあった。
登山遠足は決まって藻岩山に登り、
学校から支給されるハイソフトを頬張りながら
ダラダラと小さな足で進んでいた。
初の単独登頂、気持ちだけは栗城史多君。
標高531m約2.8キロの道のり大人だと1時間10分で登れる山だが
正直過去の経験から言うと笑って登れるほど楽ではない。
「自分のペースで自然を見ながら楽しく登ろう。折角一人なのだし。」
と考えていたら、僕の隣をさっそうと走り抜けていくアスリート風のおじさん。
気が付けば僕は完全に自分のペースを忘れて山道を早歩きで登っていた。
さっそうと走ろうと思わなかった所が大人になったなと思っていた。
自分を見失ったまま速いペースで山の中腹まで差し掛かった、ここで約30分弱、
ベンチに腰をかけジュースを一口飲みまた歩き始める。
折角大自然の中にいるのにも関わらず
僕は自然には一切目を向けていなかった。
まるでこの光景が当たり前なのではないかと思わせるほど淡々と、
そして自分の記録を作る為だけに
僕は山を登るという目標に変わっていたのだった。

時折緩やかな道は小走りになってみたり、
岩場を飛びながら登ってみたり、
頂上には結局55分位で登る事が出来た。
悪くないタイムだと思っている。
この山はロープウエイで登ることや車で登ることも出来る。
健やかに札幌の景色を堪能している人の中で、
水を頭から浴びながら上半身裸になって
着替えをしていた僕は何ともいえない快感を得ていた。
出来れば全裸になってしまいたかった。
往復で2時間。
自然を堪能しなかっただけに
街の中に戻ってきても何の違和感もなく、
近くの蕎麦屋に入りビールを飲みながらざる蕎麦を食い。
完全に脳内が覚醒してしまったのか、
部屋に戻り狂ったように掃除を始めていた。
何が変わったわけでもなく、何かに気がついた訳でもなかった。
ただ気分が良かった。
わかってはいたが、
1歩を踏み出さなければ気分は良くはならなかったのだろう。
簡単な事が簡単に出来なくなっているだけだと馬鹿馬鹿しくなった。