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先日、市場のおやじの店で
旬とか季節の移り変わりとは異次元の出来事が起きた。

時は、午前11時半。
お昼少し前、朝が早い市場の男たちがちょっと一息、
小腹がすき始めた、と意識する時分だ。

そんな時、彼ら、いや彼女ら一行は現れた。

「オコワリ下さあいー」

「スイマセン！オコワリくださいー」

声の方向を見ると、本日入荷旬の鮮魚・お刺身コーナーの売り場前で
５〜６人の威勢のいいお客様が試食用のお刺身の空になった皿を持ち上げて叫んでいる。

「オコワリ」と叫ぶ彼女らの意は、「おかわり」だった。

マグロの赤身や中トロ、平目、ソイ等、
本日イチオシのお刺身を並べた試食の皿が「さぞかしうまかったんだ」
と店主はすっかり気を良くして「はいよ！おかわり！」と差し出した。

「アリガト、アリガト、」

「ホント！このマグロ・・オイシイ！トロ？」

「ヒラーメもオイシイ・・！これヒラーメでしょ・・！
ウン、ヤッパリ！ヒラーメ、ホントオイシイ！！」

常連さんの道産子とは明らかに異なる気配だ。
異次元の一行は、よくしゃべり、よく食べる。
しかし・・・値段は聞いてこない。

その辺でピンときた。「なんか・・ちがう」と市場のおやじは確信した。
恐る恐る・・「お客さんたち、どこから来たの？」と聞くと

「中国からキマシタ」
「ホッカイドウ！イイトコ！」
「スキデス、サッポロ、キレイ、マチ、ユキ」
「マグロ、ヒラーメ、サシミ、ホントオイシイ」

と、よどみない片言の日本語単語が店内にあふれた。
全員がほぼ同時に一気にしゃべり返してくる。
そして・・・屈託なく次の言葉が飛んできた。

「シャッチョウサン！メイシ（名刺）クダサーイ！」

しょうがなく一枚差し出すと、
「アリガト！アリガト！来年マタキマース！」と笑顔で手を振る彼女たち。
市場のおやじは、唖然。笑顔で見送くるのが精いっぱい。
とにかく、嵐は去って行った。

魚屋で味見と言えば、対面販売の中での楽しみ。
日本人が自然な会話の中で織りなす
人情や機微があってこそのはずなのだが・・・
この魚屋文化を超越する爆弾低気圧並みのチャイナパワー。

安堵し見送る市場のおやじが、
ふと視線を我が売り場の鮮魚コーナーに戻すと、
「オコワリ」したはずの刺身の試食皿も・・・やはり空だった。

こんな出来事があると、やっぱりつくづく日本人で良かった、と実感しつつ・・・
さあ！気を取り直してドーンと北海道札幌中央卸売市場から一足早く
春の訪れを感じる旬の鮮魚たちを紹介しよう。

札幌中央卸売市場は、彼岸を過ぎて確かに春の魚介、鮮魚の水揚げ入荷が始まった。
イチオシは、なんと言ってもカニとエビ。

流氷明け、オホーツク海北見枝幸産や雄武産の活毛がに漁が解禁！
毛ガニ好きの道産子にとって今、食わずしていつ食べる、
と言える程の待望の季節が到来。

かにみそタップリ、身入り最高のオホーツク産、道産地物の活毛ガニは、
春から夏、まさにこの時期から3カ月が食べ頃、旬なのだ。

甘エビとボタンエビも今が旬だ。
日本海の増毛産、羽幌産、苫前産に加えて太平洋日高産が解禁！
札幌中央卸売市場にも今なら船上冷凍ものではなく、
まさに「活」、「生」の透き通る程に甘い子持ちのボタンエビが連日入荷中。

お刺身で、通の方なら踊りもOK！
手頃なお値段で活生牡丹エビが味わえる幸せな春がやってきた。

この他、日本海だけでなく流氷明けを実感させるように、
オホーツク網走産の春ニシン、メスはもちろん数の子入りが水揚げ入荷。
根室や昆布森産の生の真ボッケなども豊富に入荷中で、
北海道の春を楽しむ魚介だ。

旬の今だからこそ味わえる活〆脂乗り最高の
生ホッケの刺身も運が良ければ手に入る。

もちろん、市場のおやじは、
今が旬！昆布森産の生の真ぼっけを手作りの一夜干しで焼き、
ホクホク、脂のり最高の身を酒の肴に、今宵も大好きな芋焼酎ロックを楽しんでいる。

早くも一杯目でいい感じで酔いがまわってきた。
朝が早い市場のおやじ、どうやら今宵は「おかわり」せずに寝られそうだ。



これからも　季節、旬の魚介や海鮮が入荷したら市場から伝えます。