名札をさげた守り神
2008年6月13日
以前、勤めていたBARから電話がなった。
ありがたい事に、私に会いに来たお客様がいたので
当店、BRONX the clubを教えてくれたという。
名前が佐々木様、男性客という事しか分からない
。
どんな佐々木様が現れるのか、わくわくしながら来店を待つ。
ドアが開いて、
身長180以上、体重100キロ以上の
ビックサイズの佐々木様が現れた。
彼は、大学時代の部活動の数少ない同期であった。
前回、昔話をしながらグラスを傾けてからは10年近く経つのであろうか、
懐かしさと再会出来た嬉しさで抱きつきたい衝動に駆られたのだが、
そこはじっと我慢の子で、しぶく『お帰り』と右手を差し出す。
彼と私は学生時代、
アメリカンフットボール部に席を置いていた。

入部した時は30人以上いた同期も、
道内一の激しい練習に悲鳴をあげ
時間を重ねるたびに減っていき、
私達が4年生になった時には
同期がたった3人という寂しい状況になっていた。
そんなたった3人のうちの一人が彼だった、
戦友である。
私たちのチームは道内の最古豪で、
毎年注目されるチームではあったのだが、
私たちが最上級生になった時にはすでに4年間の間、
優勝の二文字からは遠ざかっていた。
たった3人で、多くの後輩を従え、
チームをまとめるのは今考えても大変なことだと思うが、
3人しかいないのだから仕方が無い。
3人の無い頭をひねって何とか優勝に向って頑張っていた。
表面上では叱咤激励する諸先輩も、
いやいや学生日本一を何度も経験された監督さんでさえも
本気で優勝するとは思ってはいなかったはずだ。
そして5年ぶりに優勝旗が我校に帰ってた4年生の秋、
辛い練習の涙が、嬉し涙に変った。
その時一番泣いていたのが何を隠そう、
カウンターでシングルモルトをすする佐々木氏であった。
昔ばなしに花が咲き、
あっという間に空が明るい時間になってゆく。
本当はどこか二人で出かけたいのだが、
朝一の飛行機で帰郷する彼には、多少の睡眠時間も必要なはずだ。
いく種類かのシングルモルトを飲み干し、
帰り支度をする佐々木は最後にこう言った。
『最後に飲んだ酒、
あれボトルでいれといてくれよ、また来るからさ』
にくい言い草である、10年ぶりに会ったくせに。
口の開いていないハイランドパーク12years、

今日からボトル棚の一番奥に陣取り、
当店の守り神となった。
当店の守り神はちょっとばかりユニークで、
『佐々木英明』という名札を下げている。
あとがき
お世話になった、私のコラム担当者が
退社されると聞きました。
残念でなりませんが、
新たなるフィールドでのご活躍を心から願っております。
本当にありがとうございました。
ハイランドパーク12年
※http://www.asahibeer.co.jp/enjoy/liquorworld/brand/highland/
北緯59度、オークニー諸島の世界最北端の蒸留所で
作られるシングルモルトスコッチウイスキー。
複雑かつ深みのある香りと丸みをおびた味、
お奨めの逸品である。
