男の成長
2008年1月25日
私がこの世界に足を踏み入れ、お世話になりはじめ5年程経った頃、
あるお店の責任者に抜擢された。
彼、Y君はその頃にご来店いただいていた常連のお客様だった。
Y君はその頃まだ10代、中学を出てすぐに中央卸売市場で働く若者だった。
きっと背伸びをして、大人の仲間入りがしたくて通ってくれていたように見えたのだが、
それが又カウンターの中からは可愛らしく思えた。
そんなY君と昨年18年ぶりの再会をはたした。
それは私の同級生が市場に働き場所を変え、
Y君と知り合い、話をしているうちに私の名前が出てきたからだ。
それからY君はちょくちょく当店に顔を出してくれるようになった。
そして2年前にゲットしたつれあいも紹介してくれた。
先日、そんなY君が浮かない顔をしてドアをあけた。
彼は市場内の青果店で配送を受け持つ契約社員だ。
社歴は長いのだがそこの社長の考えで、
配送は銭を生まないので社員は要らぬと言い、契約社員が続いている。
(私に言わせれば、なんて馬鹿な社長だろう。
現場で商品を受け渡す配送員ほど1番の営業マンではないのか)
朝の早い彼の為に奥さんは5時前に起きてお弁当を作る、
その奥さんも又仕事を持っておりIT関連の会社で働いている。
なかなか出来るもんじゃない。
話を聞いてみると、Y君は会社を辞めようとしていた。
新しく大きなスーパーとの契約が取れ、そこの配送を打診されたと言う。
それ自体は何とも無いことなのだが出社が1時間半も早くなると話は別だ。
就業契約書に記載されている内容から1時間半も早い出社、
そしてギャランティーのアップはなし。
ふざけるなと彼は思ったと言う。
私は心中を考えずに『仕方ないだろ、このご時世』
なんて軽く答えてしまったが彼の話を聞いてだまり込むはめになった。
Y君『俺が早く出れば、嫁はその分早くおきて弁当や朝の仕度をする、
仕事を持っている身で。
それは仕方の無い事としてもその大変さを会社は何の評価もしないのだろうか?
少なくともギャランティーのアップは嫁への対価なんだ、
俺が仕事を出来るのは嫁の力添えがあってこそ、
家族の支えがあってこそなんだ。
それを蔑ろにする会社ならば辞める、
たとえどんな職に就いても嫁は俺が守るんだから』
と彼は100キロもある体の背中を丸め私の目を見て穏やかに話した。
それは背伸びをして飲みに来るこまっしゃくれた若者の顔ではなく、
しっかりと嫁を守りそして感謝の気持ちを忘れないりっぱな男の顔があった。
男の成長を感じ、何だかかっこよく思えた。そして真っ直ぐな彼に少しだけ感動した。
BGMの木下航志、『絆』が静かにそして力強く流れている。
今度家庭を持ったら彼のような強い心でつれあいを守りたい。
そんなに遠くない未来に。
木下航志
盲目のソウルシンガーピアニスト。
和製スティービーワンダーとも言われる若干18歳のアーティスト。
必ず何かを感じるはずです、是非一度聴いて欲しい筆頭です。
木下航志HP
